ちゃぶ台ファクトリーで根を詰めていると、ほっと一息というときに「タバコっ」と思うことがある。
三度目の禁煙から10年強。いまだにそう思う。つかれたときのタバコはおいしい。10年たってもその味は忘れていないのだ。
でも吸わない。吸ったらまた、間違いなく復活する。適度にってことが出来ないから、必ずヘビースモーカーになる。
タバコは“かっこいい”と思っていた時期があった。タバコを吸うきっかけは、きっとみんなそうなんじゃないかと思う。
最初に吸った煙草は「hi-lite」。はじめて吸ったのは喫茶店。田舎の街のメインストリート。半地下で、ちょっとアングラ的な雰囲気。少し見上げて窓から見る街の風景をおぼろげに覚えている。
いまでこそ喫茶店なんて老若男女、誰でもためらわずに入る場所だけど、当時は大人の世界だった。
ちょっとませていた同級生につれられてはじめて入った“大人の”世界で、はじめて吸ったタバコの味。味を覚えている訳ではないが、きっと人生の中でも稀な刺激的な経験だったのだ。店のシートの感触や並べてあった布製のクッションの感じ、雑誌が乱雑にならべてあった白い木製キャビネットの配置。そして同級生と自分の座った位置など、おぼろげだが、本当に覚えている。
かっこよくいうと“青春のワンシーン”。
シンガーソングライターでもなく、ペーパーバックの作家でなくても、平々凡々な思い出を“青春のワンシーン”などと表現すると、それなりに聞こえる。
ある日、先輩が「hi-lite のパッケージの青い色はな、カリフォルニアの空の色と同じなんだ。」と言った。「へぇ、そうなんだ」と素直に信じた。アルバート・ハモンドの「カリフォルニアの青い空」という曲が浮かんで、hi-liteを吸っている自分がかっこよく思えた。単純な奴。
先輩が何を根拠にそう言ったか、それなりの理由があった気がするが、忘れた。
後日知ったのだが、hi-liteのパッケージのデザイナーは、あの和田誠さんだということ。
「ゴールデン洋画劇場」のオープニングタイトルや、星新一の小説の挿絵で有名なイラストレータ。
和田さんの著作「お楽しみはこれからだ」は映画好きの自分にとって、一時はバイブルのようなものだった。
単純な線画で表現する映画のワンシーンが大好きで、一生懸命真似て描いたが、もちろんものにならなかった。
タバコをテーマに1/@のエッセイをと書き始めたが、どんどんと話がそれて行く。
話を戻す。「タバコはかっこいい」。
『アメリカン・グラフィティ』という映画の中で、ジョン・ミルナーが白いTシャツの裾をロールアップし、そこに「CAMEL」を挟んでいた。これがかっこいい。
もちろん、即、まねをした。
白のTシャツにBOBSONのジーンズ。リーバイスの501と言いたいところだけれど、当時新参の国産メーカーのBOBSON。501なんてなかなか手に入らなかったと思う。
Tシャツの袖をロールアップして、CAMELでなくhi-liteを挟み、意気揚々と繁華街へ。
ジーンズショップの店員に、「上着くらい買ってもらいな」とからかわれた。
「このかっこよさがわかんないの?」なんて、そのときはほくそ笑んだが、あとで考えると、着ていたTシャツも、Hanes みたいなアメリカン・テイストのものでなく、どちらかというと下着にちかいものだった。今考えると顔から火が出る。
“青春のワンシーン”。
映画の中で、ポール・ル・マット演じるジョン・ミルナーが乗っていた黄色のクーペがかっこいい。
1932 Ford Deuce Coupe。
ジョンにレースを挑むボブ・ァルファを演じたのが、無名時代のハリソン・フォード、なんてことはいまさら書くまでもない。
ボブが乗っていた黒い 1955 CHEVY もかっこいい。
ちなみに、映画「インディ・ジョーンズ」の4作目「クリスタル・スカルの王国」の冒頭シーンは、ジョンとボブのレース・シーンの焼き直し。
Franklin Mint 1/24 1932 Ford Deuce Coupe
黄色のフォード。友人がどこからかプラモデルを見つけてきて、きれいに作って部屋に飾っていた。欲しくてたまらなかった。いろいろ探したが、すでに廃盤になっていて手に入れることが出来なかった。
インターネットが普及して、通販が当たり前になって、手に入れた。
Matchboxの1/64、REVELLの1/25、ERTLの1/18、積年の思いが大人買いに発展。
そして、モデル化のなかで評価が一番高いのが、Franklin Mintの1/24。
ほんとうによく出来ている。
「MY GARAGE」の中心に納まっている。