「ヒルツの愛機はなんだったのだろう?」
彼が撃墜されたとき、どんな飛行機に乗っていたんだろう。
ヒルツにA-2を着せてポーズをとらせたり、“自慢”の改造バイク「大脱走モデル」に跨らせたりするうちに、すごく気になりだした。

ヒルツはアメリカ陸軍航空隊の大尉。収容所の所長に向かって「大尉だ!」と襟章を見せるシーンがある。撃墜され捕虜になった。

「大脱走」は事実をもとに制作された映画で、舞台のモデルは、実在し、実際に大脱走が敢行された「第三航空兵捕虜収容所」。「スタラグ・ルフト III(Stalag Luft III)といい、第二次世界大戦中、ドイツ空軍が運営していた。捕虜となった航空機搭乗員が収容されたのだそう。
ベルリンの南東160kmで、現在のポーランドのジャガンという街の近郊にあったらしい。

ヒルツのモデルも実在した。
「デイビッド・ジョーンズ:David Mudgett Jones」という人。
アメリカ軍のパイロットで、2年半の間スタラグ・ルフト IIIに収容されていた。
製作40周年記念として2002年に発売されたDVD「大脱走・特別編」に特典映像として「真実のヒルツ大尉」という23分のドキュメンタリーが収録されている。
デイビッド・ジョーンズ本人が自分の経歴と「大脱走」とのかかわりを語っている。
彼は1913年に生まれ2008年になくなっているから、享年95歳。おぉう、長生きぃ。

彼は「ドゥリットル空襲:Doolittle Raid」の主要メンバーだった。
ドゥリットル空襲は、1942年4月18日、アメリカ軍が行った日本本土への最初の空襲。航空母艦「ホーネット」から陸軍航空軍の「B25ミッチェル」爆撃機を発艦させて行った。
指揮官はジミー・ドゥリットル中佐。16機の「B25」で日本本土を襲った。
デイビッド・ジョーンズ大尉は、5番機の機長。
英語版Wikipediaには、5番機クルーの集合写真が掲載されていて、彼は前列に写っている。
Doolittle Tokyo Raiders, Crew No. 5。95th Bombardment Squadron, front row: David M. Jones, pilot; Captとある。

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 B25 Mitchell  1/48  ITALERI

映画のヒーローのことを興味本位で調べ始め、遠い“ヨーロッパ戦線”から思わぬ“日本本土空襲”に話が及んだ。
とたんに少し気分が重くなる。数年前に行った「パールハーバー」で感じた複雑な気分が蘇る。
アメリカ軍対ドイツ軍の話は “遠いところの話”。映画のようにさえ感じ、他人事この上ない。けど、対日本となるとやっぱり身近に感じて、いろんなところに思考が及ぶ。
とはいっても自分は“戦争を知らない子供たち”。戦争は「非日常」。B25ってかっこいいなあ、なんて無邪気に言ってしまう。戦闘機を飾って楽しんでいる。いいかげんなもんだ。

ヒルツ大尉のモデルに話を戻す。
1942年9月、デイビッド・ジョーンズは第319爆撃隊に指揮官として北アフリカに赴任した。
そして、チュニジアのビゼルト空港の爆撃に出撃し、“On December 4, 1942, he was shot down over Bizerte, North Africa”。
“shot down” は米俗語。つまり、撃墜されたということ。本人いわく「左のエンジンを撃たれた。ふたつの丘のはざまにつっこんだため、翼が折れた状態で機体が地を滑った」。
そして、捕獲され「スタラグ・ルフト III」に送られて、「大脱走」作戦に加わった。
航空軍第319爆撃隊に配備されていたのは、「B26マローダー」という爆撃機。愛称のマローダー(Marauder)とは“略奪”という意味。
“高性能な爆撃機が欲しい” という軍からの要請で、ノースアメリカン社が開発したのが「B25」。愛称はミッチェル(Mitchell)で陸軍のミッチェル准将の名前からつけられた。
そして同じ要請で同時期にマーチン社が開発したのが「B26マローダー 」。

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 B26マローダー Wikipediaから引用

第319爆撃隊の配備機がB26だということは、ネットを探索して知った。
DVDの中でデイビッドは機種名を伝えていないが、「撃墜された」という件(くだり)の映像にB26が使われている。
それに、2000年に初版第1刷が大日本絵画から発行された「コックピット 第2次大戦軍用機インテリア写真集」に、「北アフリカ上陸の“トーチ作戦”の後、第12空軍の第17、319、320の各爆撃航空群がB26を運用した。」とある。まず間違いない。 

“実話にもとづく” ということに沿って結論付ければ、ヒルツの愛機は、「ミッチェル」か「マローダー」。
どっちが好きだったかはわからない。
DVDの中で「(Doolittle Tokyo Raidersに)選ばれれば、あのB25に乗れる」と話しているから、若い頃憧れたことは間違いない。
撃墜されたときに乗っていたのは「マローダー」。

こうやって、それほど時間をかけずに調べられるのはインターネットのおかげ。趣味生活にインターネットは欠かせない。

う〜ん、でもなぁ。どうも個人的にはしっくり来ない。
ヒルツのあの雰囲気、一匹狼的でやんちゃな感じ。“爆撃機の機長”ってふうにはどうしても思えない。
やっぱり戦闘機が似合うよなあ。ドイツ本土空襲のB17を護衛した「P47サンダーボルト」か「P51ムスタング」がいい感じ。
A-2とスウェット、トラウザースを“おしゃれ”に着こなし、トライアンフを駆るあの感じから言うと「ムスタング」が似合うかも。
おぉ、そうだ。マックイーンの主演映画「ブリット」の有名なカーアクションは「1968年式フォード・ムスタング」。ムスタング違い。

P51の頭のPはPursuit(追撃)で戦闘機を意味する。“追撃”なんて、まさにマックイーン・ヒルツにぴったりな感じ。

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ヒルツの搭乗姿はこんな感じか モニター画面はP51ムスタング
hilts-pilot2
 
うん、よし。ヒルツの愛機は「ノースアメリカンP51ムスタング(Mustang)」ということにしよう。
ただ、我が格納庫(My Hangar)にはまだムスタングの配備がない。いずれ配備しなければ。「大脱走ごっこ」は楽しいなぁ。