ヒューバート・ゼムケを知ったのは確か3年半ほど前。きっかけはトイズ・マッコイ。
2007年だったと思うが、トイズ・マッコイが裏地が赤いシルクのA-2をリリースした。ベースとなったのは、ゼムケ(Hubert Zemke)大佐が着用していたA-2。
確か、商品名は“トイズマッコイ A-2 ウルフパック レッドシルク”。おおう、かっこいい。商品の解説には、“第8航空軍第56戦闘航空群”や“ゼムケ大佐”、“ゼムケズ・ウルフバック”なんて記述が並ぶ。“エースパイロット”なんて記述には胸が踊った。
なんで裏地が赤いかというと、エース・パイロットの証ということ。敵機を5機撃墜すると“撃墜王”、つまり“エース・パイロット”と認められる。第56戦闘航空群では、その証としてA-2の裏地を赤にすることに決めたんだとか。
裏地が真っ赤なんて、超かっこいい。それが “エース・パイロット” の証だというのだから、壷に嵌った。
もっとゼムケという人のことを知りたい。 “エース・パイロット” の証で裏地を赤にしたって後からの作り話じゃないの?
もう何年の前から、分らないときはWeb頼み。
愛用の「Google」に“ゼムケ”と入力して「検索」をクリック。結果、「P47サンダーボルト戦闘機隊—名戦闘機隊長ゼムケ大佐 語る」という項目が出た。
ビンゴって感じ。ほほう、本が出ているらしい。
ちなみに、今、同様に検索しても、検索結果の2、3項目目に「Amazon.co.jp: P47サンダーボルト戦闘機隊 ..」と出る。
.以下がその本の解説文。
〜 ゼムケ大佐率いるアメリカ第8航空軍第56戦闘航空群が英国に展開したとき、ドイツ空軍は依然として強力な敵だった。
実戦経験のない隊員たちはドイツの熟練パイロットに苦戦を強いられる。ゼムケはこの逆境を強力なリーダーシップで克服しようとした。
部下たちに規律を徹底させる一方で、部隊のためには将軍とも喧嘩する。
そんな彼の努力が実を結び、やがて第56は第8航空軍きっての精鋭戦闘機隊へと変貌を遂げる。
「ゼムケの狼群」の伝説的名指揮官ゼムケ大佐が、苦闘と栄光の日々を自らの言葉で語る本書は、逆境にあって屈せず、創意と努力でそれを克服した一人のリーダーの生きざまを垣間見せる好著である。〜
その時はこんな解説も読まず、その本を入手したのは後から。でも、読むまでもない。こんな本があるくらいだから。と、それだけで “ゼムケ大佐はかっこいい” と思い込んだ。
“トイズマッコイ A-2 ウルフパック レッドシルク” が欲しい。自分でも呆れる単細胞。
ちなみにこの単細胞は、どうも治す薬がない。自覚があるが、どうにも治療方法が見つからない。こんな重病患者を見捨てない奥さんに感謝。
このゼムケのA-2をリリース知ったのは、発売から1年半も経ってから。恵比寿の「トイズ・マッコイ」に電話したが、当然 “完売” の回答。けど、諦めきれない。
「トイズ・マッコイ」の正規取扱店を調べ、南から順に根気よく電話で照会した。確か仙台のお店だったかしら、北から行けばよかったと思った。「在庫1着あり」でサイズもドンピシャ。夢見心地。
「ゼムケ大佐 語る」の本。A-2の着心地に酔いしれて、やっぱり欲しくなった。 “エース・パイロット” の証で裏地を赤にしたって作り話じゃないの、という疑問が頭をよぎって確認したくなった。
通販で入手した。早川書房が1994年に発行したハード・カバーで、著者はロジャー・A・フリーマンという人。
187ページからに、ちゃんとその記述があった。
〜 ことにうれしかったのは、ジェリー。ジョンソンがMe109一機を撃墜して、これで彼の撃墜機数は5機となり、彼は“エース”つまり撃墜王となったという点だった。…中略
ジェリーの功績を表彰するため、われわれは彼を他の仲間からすぐに識別できるようにする方法が何かないか、捜し求めた。誰かが、カスター将軍麾下の精鋭騎兵隊が、レッド・インディアンの勇敢な戦士たちと戦闘を交える際に、明るい緋色のスカーフを巻いていたことを思い出した。われわれはわが航空群ではエースの目印をジャケットにつける赤い絹の裏地にすることに決めた。
こうしてジェリーは上着をはぎとられ、その上着はロンドンに送られて緋色の裏地をつけてもらうことになった。〜
アメリカのオハイオ州デイトンにある国立アメリカ空軍博物館: National Museum of the United States Air Forceに、実際にゼムケ大佐が着用したA-2が保存されていることも知った。
公式ホームページにはその写真が掲載されている。で、その解説文の一部は次のとおり。
The 56th had a tradition that when a pilot became an ace, he could have red lining sewn into his flight jacket; …
第56(戦闘航空)には、パイロットがエースになった時、フライトジャケットに赤い裏を縫い込むことができる、という伝統があって…てな意味か。
ちなみにこの博物館はライト・パターソン空軍基地内にあり、ライト兄弟が初飛行した場所はこの敷地内。名称のライトはライト兄弟のライト。
間違いない。赤い裏地はエース・パイロットの証。レプリカじゃんと言えば見も蓋もないが、“トイズマッコイ A2 ウルフパック レッドシルク” を持てたこと、結構自慢なのだ。
実は、このゼムケ・レプリカにはもう一つ、トイズ・マッコイらしい、プロデューサーの岡本博らしい、 “粋” な仕掛けがある。どうしても手に入れたくなったのは、この仕掛けが決定打。
styled by GRIFFTH LIMITED MANUFACTURERS LONDON
Expressly for The United States Forces European Military Operation
このA-2は、「グリフィス」という会社が、ヨーロッパに軍事展開するアメリカ軍のために仕立て直したという証明。
で、この「グリフィス」という名前。おおうっ、な、なんと。やられたっ。
さすがと言うか、呆れたというか、やっぱり岡本さんのこだわりの遊び心。
「グリフィス」とは、あの映画「大脱走」で、脱走計画の重要な役割を果たした捕虜の1人の名前。ロバート・デズモンドという人が演じている。
劇中、グリフィスの役割は仕立て屋。Tailorがニックネーム。軍服、カーテン、毛布など、収容所内のあらゆる物を使って、脱走の際に偽装するための普段着やコート、ドイツ軍の制服などを仕立てる。
つまり、第56戦闘航空群から依頼を受けて、赤い裏地を施していたロンドンの縫製会社が「グリフィス」。その会社の主人か跡取り息子かが、英国空軍に出兵して撃墜され、ヒルツと同じ収容所に収監された。彼はそこで自分の縫製の技術を生かし、大脱走計画に参加した、という感じか。
岡本さんはこんなサイドストーリーを作ってしまった。
岡本さんはこんなサイドストーリーを作ってしまった。
岡本さんの“みごと”な策略に、嵌った。どうしても “トイズマッコイ A-2 ウルフパック レッドシルク” を入手せねば。これを持たずして「大脱走」は語れない。「A-2好き」は名乗れない。と、どうしようもない単細胞は無我夢中になった。
冬夏関係なく、時々クローゼットから引っ張り出し、袖を通してにやにや。第56戦闘航空群指揮官 "ハブ" ゼムケになった気分。
となると、やっぱり趣味部屋の My Hanger には“愛機”が欲しい。その“愛機”の背景に“ゼムケA-2”を配して、宣伝ポスター風の写真が撮りたい。
実機のP47なら申し分ないが、無理に決まってる。適度な大きさの1/18が見つかって、「ゼムケのP47 1/18を作る」プロジェクトと相成った。
実機のP47なら申し分ないが、無理に決まってる。適度な大きさの1/18が見つかって、「ゼムケのP47 1/18を作る」プロジェクトと相成った。