通った高校はキリスト教系の男子校。
礼拝堂があり、週に一度は全生徒が集まって聖書を読み礼拝する時間があった。
だから校風もなんとなくアメリカナイズしていて、自由な雰囲気であった。
大学の附属で、自分が通う数年前までは敷地内に大学があったから、当時には珍しいジャズ部やゴルフ部があった。
制服は今のようにブレザーではなく、男子は詰襟、女子はセーラー服が主流の時代だったから、黒の詰襟と指定されていた。
けれど、私服の大学生と同居していた影響が残っていて、細かく規制されることなく、かなりラフな感じが許されていた。
ちょうど一斉を風靡したアイビールックの末期あたりの時代で、シャツは必ずボタンダウン。スラックスは「コッパン」と略して呼んだコットン・パンツ。靴は「converse」か「PRO-Keds」。夏には「Topsider」というデッキシューズを履く奴もいた。
白のボタンダウンに、襟の高さを少し低くし、着丈も短くつめた黒の詰襟を着て、ハイカットのコンバースの星のマークが見えるくらいに丈を短くした紺色のコッパンを穿く。
アイビーは、アメリカの大学生のファッション。ハーバードやコロンビアなど、「アイビーリーグ」と呼ばれた東部の8大学の学生の間で広まった。校舎にからまる蔦(アイビー)からその名がついたとも言われるらしい。
まさか、アメリカの大学生が詰襟なんて着ていなかったろうから、黒の詰襟に紺のコッパン、バスケットシューズがアイビーなんてはずがない。わかってはいたけれど、あの頃は“これだってアイビー”だと粋がっていた。

あのころ、アイビーを粋がるのにいくつかのキーワードがあった。
先述の「ボタンダウン」、「コッパン」、「バッシュ」つまりバスケットシューズ。「コインローファー」もそうだし、「レターカーデガン」や「スタジアムジャンバー」なんてのも、アイビーのキーワードとして覚えた。
映画俳優の「アンソニー・パーキンス」はアイビールックのお手本だったし、映画「エデンの東」の「ジェームス・ディーン」を真似して、腰にセーターを巻いた。
「メンクラ」、つまり雑誌「Men's Club」はアイビーの教科書。
キーワードでぜったいに欠かせないのが、「VANジャケット」。VANジャケットの石津謙介さんが日本でのアイビールックの提唱者だから当然のこと。
「ボタンダウン」も「コッパン」も、「VAN」のロゴが記されたネーム・タグがついていなければ、偽物のような気がした。
黒と赤のVANのロゴ、イコール、アイビーといっても過言でないくらいVANジャケットの製品に憧れた。
「ダッフルコート」なんか、着たくて欲しくてたまらなかったけど、自分には高価で手が出ない。さすがに親にねだる事もできなくて、着ている同級生を嫉妬の眼で見ていた。

ホンダの「モンキー」もかかせないキーワードのひとつ。
アイビーは服装のスタイル。石津さんの提唱の中に原動機付自転車が含まれていたとは到底思えない。けれど、「モンキー」のあのコンセプトとデザインがシンクロした。
マドラスチェックのボタンダウンにスイングトップを羽織り、生成りのコッパンにコンバースを履いて「モンキー」に跨る。最高にかっこいいと思った。
16歳の誕生日を迎えると同時に「原付」の免許をとった。じいちゃんが「MONKEY Z50J」買ってくれた。孫が眼に入れても痛くなかったんだと思う。我が家がはじめて所有したエンジン付きの乗り物になった。

monkey
当時を思い出しながら、久しぶりにイラストを書いてみた。adobeのPhotoshopは本当に便利。
MonkeyはZ50JをZ50Z(3型)風にカスタマイズ。タンク、シート、マフラーを替えてこんな感じ。

 
「MONKEY Z50J」は、日本で市販が開始された「MONKEY Z50M」から数えて4代目。「4型モンキー」と呼んだ。ホンダーのホームページでは“ニューモンキー”と記載していて、この製品を、今に続く展開のスタートとして位置づけてるらしい。
4型で大きく変わったのは後輪のサスペンション。3型、つまり3代目「MONKEY Z50Z」まではサスペンションではなくフレームだったから、間違いなく乗り心地が良くなった。
友達と3台で30kmの距離をツーリングしたとき、3型の友人は、途中「腰がいてぇ」と何度も言っていた。
でも“アイビーのモンキー”はフレームのモンキー。3型のデザインがアイビーとベストマッチだと、あの頃も今もずっと思っている。今だって、走らなくてもいいから綺麗に磨いて1/1として部屋に飾っておきたい。
友達の一人は3型を入手し、既成のカラーをピンクに塗り替えてオリジナルだと自慢していた。さすがに“ピンクはないだろう”と、彼のセンスを疑ったが、それでも3型はうらやましかった。
当時、すでに3型は新車市場からはなくなっていた。今までエンジンのついた乗り物を買ったことのない我が家だから、中古車なんて発想はなく、バイク屋さんではなく、近所の原付も扱う自転車屋さんで買った。

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 HONDA MONKEY Z50Z (EBBRO 1/10) “3型モンキー
 
乗り心地がよい4型では満足できず、3型に憧れた。
ある日、友人が3型のガソリンタンクを譲ってくれた。さっそく付け替えた。4型のタンクは4リットル入る。3型のタンク2.5リットルしか入らない。でも、3型のタンクの方がかっこいい。「Monkey」と彫刻された両サイドのエンブレムが“アイビーっぽい”。
しばらくして“今風”のデザインのマフラーを、少し“レトロ調”の3型のキャブトンマフラーに付け替えた。当時「カスタム」なんて言葉は知らなかったが、4型を3型風にカスタマイズして、とりあえず満足していた。

モンキーの人気は根強いみたい。今も毎年くらいにマイナーチェンジされて発売され続けている。ファンも多く、オーナズクラブもいっぱいある。カスタマイズもさかんで、専門店まである。ハンス・ムートがデザインしたあの「スズキのカタナ」や、「カワサキのZ2」に変身してしまうパーツまで販売されていると聞いてびっくりした。
ならば「大脱走バージョン」にでもカスタムし、マックイーンのコスプレをして楽しむのもいいかもしれない。
でも、やっぱりモンキーは3型。つまりオリジナルのままの「MONKEY Z50Z」がいちばんいい。
スイングトップにボタンダウン、コッパン、バッシュで3型モンキーに乗る。これがモンキーのユニフォーム。「アイビー」の定番スタイル。
そうそう、大事なことを忘れていた。キーホルダーは「VANジャケット」のノベルティ。黒字にVANのロゴがデザインされたアルミ製のシンプルなやつ。これがぜったいに似合う。