“うかつ”にも、インフルエンザにかかってしまった。流行に敏感だからね、などと笑えない。
激しい咳に見舞われ、熱が出た。38度を超えた時点で医師の診察を受け「出ちゃいましたね」との宣告。
口から4回吸い込む治療薬を投与して、そのあとは、まぁよく寝た。まぶたがくっつくかと思うくらい。
38度5分を超えたら飲めと言われた解熱剤も飲んだの1回。みごとに熱は下がり、咳もかなり治まって、3日目には床から離れられるようになった。1〜3日高熱が続き、10日ほど完治にかかると覚悟していたが、かなりの好成績。

しかし、体調の回復を実感しても敵はウイルス。奴が消えるまでには「熱が下がってから2日間は人にうつすから気をつけてね」と医師 にいわれた。あと2日ってことは、木曜と金曜、仕事には出られない。続く土曜日も念のために静養日とすることとして、3日間、家から出ずに過ごすこととなった。

図らずも得た使い道未定の充分すぎる時間。TVを見た。Webも見た。飽きるくらい見過ぎた。
さて、何をしようか。
趣味部屋に入れれば、やることは山ほどある。が、発症したのが自宅。単身赴任先のアパートにある趣味部屋とは80数キロも離れている。残念!
では、さて何をしようか。
そうだ映画を見よう。何の変哲もない発想。
DVDを入れたキャビネットをゴソゴソ。

「空軍大戦略〈アルティメット・エディション〉」。
2007年2月に発売されたDVDで。特典ディスクが同梱された2枚組。飛行機好きには必需品だからと購入して、そのままキャビネットに仕舞っていた。
本編132分の大作だが、時間は充分ある。ハイボール片手にじっくり見ることにした。

原題は「Battle of Britain」。第二次大戦前期の1940年7月から10月にかけて英国本土上空で繰り広げられた英独の戦い「英国の戦い=バトル・オブ・ブリテン」を描いている。イギリス空軍がドイツ空軍の侵攻を阻止し制空権を守った歴史的戦いのさまざまなエピソードを時系列に描き、明確なストーリーや主人公は存在しない。

主役は飛行機。スピットファイアやハリケーン、メッサーシュミットBf109や爆撃機ハインケルHe111が実物で登場する。模型やCGじゃない。実機が全編にわたって戦闘シーンを繰り広げる。うぅん、たまらない。飛行機好き、大戦機マニアの、まさに必需品。132分が短く感じる。

ちなみに監督ガイ・ハミルトンは、007の「ゴールドフィンガー」「ダイヤモンドは永遠に」「死ぬのは奴らだ」「黄金銃を持つ男」を撮ったイギリスの人。

バトル・オブ・ブリテンにはイギリス人パイロットだけでなく、
ポーランド人、チェコスロバキア人、アイルランド人、カナダ人など、数カ国の他国籍パイロットが活躍したのだそうで、戦死者名簿の記録だけでも500人を超えるのだとか。彼らの貢献が勝利の要因とも言われている。
で、その多国籍パイロットを素材にした映画で「ダーク・ブルー(Dark Blue World)」というのがある。2002年に公開されたチェコとイギリスの合作映画。

DVD(2003年4月発売)のパッケージに記載された解説を抜粋させてもらって…
1939年、ナチス・ドイツ占領下のチェコスロバキアで同国空軍に所属していたフランタとカレルは、義勇軍としてイギリスに渡りナチス・ドイツに立ち向かって行く。そんな中、カレルは自分の命を助けた女性スーザンに夢中になっていくが、彼女が愛しているのはフランタの方であった…。
ってな感じの、「空軍大戦略」とは趣がまったくちがう戦争 “青春” 映画。パッケージにも“みじかくも美しく燃え” なんて切ないセリフが描いてある。
濃紺、濃青、いや深濃青と訳すのがいいのか。薄暗く冷たく深々と青い。そんな感じの空気を全編に感じるタイトル“Dark Blue”どおりの映画だと思う。

spitfire

spitfire3
Supermarine 
Spitfire MkⅡ 1/32  Wing Club製

この映画もスピットファイアが印象的。そう表現するのには理由があって、“活躍する” とか “かっこいい” っていうのじゃ、ちょっと違う。そんなに軽い表現じゃ適さないっていうか…。あぁ、なんて表現したらいいんだろ。ま、要するに印象的なのだ。

いままで、いろいろと戦闘機が飛び回る映画はけっこうな数見てきたけど、この「ダーク・ブルー」の飛行シーンは他と違う。
リアル、うん、そう、リアルなのかも。
戦闘機は今の時代にあっては身近かではない特別なものだけど、兵役が当たり前の時代、空軍に配属された若者にとっては、ぜんぜん特別なものじゃない。バイクのグリップや自家用車のハンドルを握るのとかわらないくらいの感覚で操縦桿を握る。もちろん常に “死” の恐怖の中にある日常だったわけだから、今のバイクと比べることに無茶があるけど、日常の道具、日常の乗り物という観点ではあたらずとも遠からず。特別な乗り物ではなかった。
「ダーク・ブルー」は、主人公の若者たちとスピットファイアの関係を、そんな感じで描いている。
淡々と飛び上がり、敵と遭遇して、敵を追い、淡々と機銃を撃つ。窮屈なコックピットの中の仕事が淡々と描かれる。上にも下にも、右にも左にも、360°触れるものがない空中にあって、かなり制約された視界の中で、仲間が畑に落ちるのを風景の一部のように見る。淡々と戦闘が終わり、基地に戻ってスピットファイアを降りる。仲間が帰らないことを知っても、誇張した感情表現はない。これが日常。きっと戦中の戦闘機乗りの日常はこんなんだったろうなと。
つまり、リアル。

この映画、公開当時劇場で見たけど、確か都内でも単館上映だった。確かに日本では万人に受ける映画じゃない。だからいくつもの映画館で上映するほど観客は入らない。飛行機好きの人たちには話題になって、必須と思って勇んで観た。観て大正解だった。
チェコスロバキア国内では100万人を動員し、国民の10人に1人が観た記録的ヒット作なんだそう。

ちなみに日本での配給はあのスタジオ・ジブリ。宮崎さんが “超” 気に入って配給権をとったのだとか。
DVDのパッケージにも「ジブリCINEMAライブラリー」のロゴが。
宮崎駿監督は飛行機がお好き。有名な話。だから、納得。